鼠径ヘルニアについて

鼠径ヘルニアとは

鼠径ヘルニア

ヘルニア(hernia)の語源は、ギリシャ語の「hernos」で、「枝」「若芽の突起」という意味です。本来あるべき位置から飛び出している状態のことを言います。

鼠径ヘルニアは、「脱腸」とも呼ばれ、鼠径部(太もも、もしくは、足 の付け根の部分)(図★)から、本来お腹の中にあるはずの臓器(腹膜や、主に小腸などの腸、脂肪)が、筋膜の間から皮膚の下に飛び出てきた状態をいいます。

鼠径部には、鼠径管と呼ばれるお腹と外をつなぐ筒状の通路があり(鼠径の「径」は「みち」の意味)、男性では睾丸(鼠は睾丸の意味といわれています)へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)、女性では子宮を支える靱帯が通っています。

鼠径ヘルニアには大きく2つのタイプ、先天性の小児鼠径ヘルニアと後天性の成人鼠径ヘルニアがあります。小児の鼠径ヘルニアは小さければ、1歳までは自然治癒の可能性があります。しかし、1歳を過ぎても鼠径部が腫れている状態であれば、自然に治る可能性はすくなく、手術が必要になることが多いです。

鼠径ヘルニアの原因と疫学

成人鼠径ヘルニアの原因ですが、年齢を重ねると、筋膜が衰えて、鼠径管の入り口が緩んできます。お腹に力を入れた時などに筋膜が緩んで出来た入り口の隙間から腹膜が出てくるようになり、次第に袋状(ヘルニア嚢(のう)といいます)に伸びて鼠径管内を通り飛び出ます。いったんできた袋は消えることなく、お腹に力を入れるとヘルニア嚢の中に腸などのお腹の中の組織が出てくるようになります。これを外鼠径ヘルニア(図(1))といいます。また、腹壁には弱い場所があり、年をとってきて筋肉が衰えてくると、ここを直接押し上げるようにして腹膜がそこから袋状に伸びて途中から鼠径管内に脱出します。これを内鼠径ヘルニア(図(2))といいます。見た目は外鼠径ヘルニアと変わりがません。鼠径部の下、大腿部の筋肉、筋膜が弱くなって膨らみが発生するヘルニアを大腿ヘルニア(図(3))といいます。

成人の場合、加齢によって身体の組織が弱くなることが原因ですので、特に40代以上の男性に多く起こる傾向があります。また、40代以上では、鼠径ヘルニアの発生に職業が関係していることが指摘されており、腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。便秘症の人、肥満の人、前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦も要注意です。

鼠径ヘルニアで、もっとも気をつけなければならない状態は「嵌頓(かんとん)」 です。はれが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなり、お腹が痛くなったり吐いたりします。急いで手術をしなければ、命にかかわることになります。

米国では鼠径ヘルニアで受診する人が年間80万人もいるといわれ、一般的な病気です。日本では14万人と推定されていますが、多忙のため我慢していたり、「恥ずかしい病気」のイメージがいまだにあって、受診を渋っている潜在的な患者様もかなり多いと推定されます。もし、ご自身の症状が上記に当てはまる場合は、一度、受診されることをお勧めします。

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鼠径ヘルニアの治療法

鼠径ヘルニアの治療は手術以外にありません。薬物や運動療法といった有効なものはありません。ヘルニアバンド(脱腸帯)を使っておられる方もいますが、治療ではなく押さえているだけですのでバンドを外すと飛び出してきてしまいます。手術は大きく2つに分類されます。

  • 従来法
  • 径部に4~6cmの切開を加え、メッシュという人工の線維を用いてヘルニア部分を修復します。以前は、ご自身の筋膜を用いて手術を行うのが主流でしたが、手術部位にかなりの緊張がかかり、術後の疼痛や違和感なども強いです。人工線維のメッシュは、ポリプロピレンでできており、50年ほど前から使用され、組織適合性が高く、体内使用の安全性は確立されています。 手術時間は1時間程度で、局所麻酔や軽い全身麻酔を併用して行います。合併症には、出血、創感染、精管損傷、精巣動静脈損傷、創部浸出液貯留、再発、神経痛などの可能性があります。

  • 腹腔鏡を用いた方法
  • 近年、腹腔鏡(細い管の先端にカメラが付いた手術器具)を用いて手術する方法が徐々に増加しています。1980年代に海外で行われ始めた手術法で、従来から行われているお腹を切開する手術(オープン法)と異なり、まずお腹に5mmから10mmの小さな穴を3ヵ所程度あけます。そのうちの1つの穴から腹腔鏡を入れてお腹の中を映します。その像をテレビモニタで観察してヘルニアの場所を見つけ、別の穴から入れた手術器具を外科医が操作して患部の治療をします。

手術法の選択に関しては担当医師とご相談ください。
麻酔は、その手法に応じて最適な麻酔法で行います。

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入院期間や実際の費用など

昔は、ヘルニア手術の後、約1週間ほどの入院を要していましたが、最近ではそこまでかかることはなく、施設によっては日帰り手術を行っているところもあります。 傷や創部の疼痛の程度によってかわりますが、多くの場合、術翌日から2日ほどで退院可能です。
当院では、手術前日入院し、翌日手術、術後2~3日目に退院ということが多いですが、患者様のご都合などを鑑み術前によく相談して予定を立てます。
入院治療においての全身麻酔3泊4日での費用(保険)の目安は、おおよそ3割負担の方で約7万5千円ぐらい、1割負担の方で約3万5千円ぐらいです。 その他、ご不明な点など、お気軽にご相談ください。当院では対応できない場合でも、適切な医療施設をご紹介いたします。

(文責:外科 石崎 彰)

参考
メディコン「ヘルニア倶楽部」
みやざき外科ヘルニアクリニック

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